朝食を済ませ、活動初日の目的地として、2013年のラナ・プラザ崩落事故（ダッカ近郊ビル崩落事故）の跡地に向けて出発した。同事故は、Dhaka近郊の縫製工場が倒壊し、従業員など千人以上が死亡したBangladesh史上最悪の労働災害である。世界中の衣料品メーカーが安価な人件費を求めて同国に生産に注力していた中で、多くの縫製工場の入居に対応しようと違法な増築が行われた結果、事故が発生した。この事故を機に労働環境の外部監査を行う重要性が再認識され、人権DDに携わるものの間では世界的に有名な場所である。


ホテルを出て間もなく、「行列」と表現したくなる車列に巻き込まれた。1.7億人が住むバングラデシュの首都Dhakaは世界一の過密都市として知られ、市街地では1㎢あたり3.3万人、過密地域の人口密度は4万人/㎢に到るといい、これは東京都23区の1.5万人/㎢の倍以上である。人口密度に対して公共交通機関の整備が全く追いついておらず、特に平日のラッシュアワーは恒常的な渋滞が発生していて、この日も例外ではなかった。


Dhakaの中心地から一度田園地帯に抜け、再び渋滞の激しい市街地に入る。ここまで10kmちょっとの道のりを移動するのに1時間半も掛かってしまった。ラナ・プラザの跡地は、整備された慰霊施設のように目立つ存在ではない。市街地化が進み、周囲にビルが立ち並ぶ中でスポット的に空き地になっていて、意識していないと見落としてしまう場所に、空地とモニュメントがひっそりと存在している。タクシーの運転手は場所を分かっておらず、少し通り過ぎて車を止めた。
車を降りて空地まで戻った。周辺の交通量はとても多く、目の前の歩道は忙しなく人が行き来しているが、不自然に空いた空地に視線を向ける人は誰も居ない。少し跡地の前で待っていると、数分ごとに敷地内に入っていく人が居るが、注意深く見ていると、慰霊に来たのではなく、市街地の公衆便所として使われているようであった。現地コンサルタントの事前情報から、ラナ・プラザ跡地が慰霊観光地にすらなっていない状況は理解していたものの、その辺の空地と同等の扱いには頭殴られたような衝撃を受けた。Bangladeshの文化として、こういったモニュメントを軽視しているのではない。それより前の歴史的な出来事、1970年代パキスタン（西パキスタン）からの独立に関連する場所は現地の人々に広く認知されており、Dhaka市内の複数箇所にモニュメントがあるものの、どこも綺麗に整備されている。


30分程滞在した後、消化しきれない衝撃とともにタクシーで市内に戻る。スモッグで濁った空の下、再び長い車列に巻き込まれていく。

Bangladesh出張記①

Bangladesh出張記③

Bangladesh出張記④