株式会社エンバイオ・エンジニアリング

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2022.03.28

人権デューデリジェンス(人権DD)前編

SDGsや脱炭素と並び、昨今、企業のCSR活動で積極的に扱われる分野の一つが「人権」だ。人権はOHSリスクの一つであり、企業にとっての人権問題は、とりわけその生産活動に従事する人々、労働者との関係においてである。一概に労働者の人権といっても、その意味するところは幅広く、児童労働や強制労働といった、これまでどちらかというと発展途上国で問題となってきた分野から、鬱病や過労死といった近代的なオフィスでも発生する分野まで、多岐にわたる。また、分野の多様性だけでなく、考慮すべき労働者の範囲も拡大傾向にある。複数の国を跨いで事業を拡大している企業では、関係する労働者の数も指数関数的に増加し、海外の自社拠点の社員、その取引先会社の従業員、その取引先の従業員、取引先の下請会社の従業員等々、どこまでを関係者とすべきか判断に悩む場面も出てきている。

グローバル企業にとって、自社のリソースのみで、関係する全ての労働者に対して社会的責任を果たすことは難しい。それを補完するための一つの手段が、内部監査的な「人権DD」である。人権DDでは、人権に関する負のリスクが存在するかの特定・対処が行われ、本社拠点は勿論、海外拠点やその取引先に対しても、時に外部の専門家に委託しつつ監査・改善が行われる。個人発の情報が広がる場所が増え、ひとたび人権が問題になれば、世界的な不買運動にも繋がりかねない状況で、企業にとって人権は立派なビジネスリスクである。しかし、概念だけでは、何からどこまで取り組めばよいか分かりにくい。
考慮すべき人権リスクについて、文書化された目安として国連の示す枠組が存在する。「ビジネスと人権に関する指導原則」は、2011年の国連人権理事会にて全会一致で支持された原則だ。これを受けて欧州では、2015年の「英国現代奴隷法」を筆頭に法制度化が進み、人権配慮への取り組みの強制化が進んだ。先陣を切った英国では、同国で事業を行う一定規模以上の企業に対して、サプライチェーン上で強制労働や人身取引などの問題がないか、人権DDを行い、その対策を開示する義務が課されている。

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旧ユーゴスラビアにて2014年に撮影。民主的な選挙実施への監視目的で集まったOSCE(Organization for Security and Co-operation in Europe:欧州安全保障協力機構)の車両軍。当時、人権とは公的機関が先導して守るべきもので、企業が積極的に責任を果たすという概念はまだ一般的でなかった。

日本はというと、2020年10月に「行動計画」が出来たものの、企業の人権DDは推奨事項に留まる。欧州に遅れること○○年といった普及へのタイムラグは、同様の分野で、2000年代にフェアトレードがビジネスで広まってきた時の状況に近いかもしれない。一方で、その概念の普及の契機は少し異なるように感じる。フェアトレードを推進する多くの日本企業が「自発的に」取り組み始めたのに比べ、人権DDは「海外法人本社の日本拠点への内部監査」といった局面で、強制力を持ったスタートが多いように見受けられる。EnBioにもその内部監査について問い合わせを頂くことが増えているが、この辺りはトピックとして一つまとまった内容になりそうなので、次回「人権デューデリジェンス(人権DD)後編」の記事で言及したい。
(文責:渡辺 英喜)