株式会社エンバイオ・エンジニアリング

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2021.10.11

言語化の落とし穴

月に何本かまとまった文章を書いていると、気付くとどこに何を書いたかが不鮮明になってしまい、確かどこかに書いたはずのものが見当たらないという現象が発生してしまう。職業柄、直接的に現場作業する訳でも、試料を分析する訳でもない。言うならば、的確な一次情報が出るようにマネジメントし、成果物としてそれを咀嚼して言語化することを生業としている。最終品は分かりやすく整った図であっても、ベースにあるのはWordベタ打ちの文章である。

ISOで言及される重要な概念の一つに「文書化した情報」がある。文書化とはつまり言語化だ。特にISO 9001(品質マネジメント)における文書化は「何となくの判断」を排除した工業化を指し、言葉にできない「職人技を盗む」的な世界と対極にある。一定の力量を持った人が行えば同じものができる、それが工業化である。 正しく言語化された情報は万人が理解でき、遅かれ早かれ誰でもできる作業となる。業界が立ち上がった初期のような工業化される前の状態では、各々の工夫によって違いを見出せる余地が多くあるが、業界が成熟、工業化が進むにつれ値付けの差しかなくなってくる。一方、工業化されるものが増えると生産性が向上し、社会全体は豊かになる。

言語化した情報によって得られるのは他者への理解だけでない。人は自ら経験した何かについても、言葉で定義することにより理解を深める。人に話すことで理解が深まるという現象の本質は言語化にある。
感覚は言語化できるのだろうか。「違和感がある」、こう表現する時、まだ言語化できていない何かが自らに警告を発している。経験の積み重ねからくる価値観か、遺伝子レベルの嫌悪感か。立ち止まって消化すると対応策も見えてくるが、往々にして見たくない現実から目を背けることになる。ピンとこない時、その時の空気に流されて心の声に蓋をすると、そのツケは後々利子が付いて戻ってくる。
こういうと何でも言葉にすべき気もするが、「何となく上手く行ってる」、最近になって、こういう時は触らずに放っておくべき気がしてきた。言語化とは一般化、他者との比較を容易にし、上手く行ってるはずの現状に欠如を生み出してしまう。様々なものが可視化され、見栄えのいい日常を送る人の「表層」が切り取られて入ってくる現代は、足りないものを意識しがちである。欠如感を埋めるための欲求、欠如の再生産こそが経済を発展させてきた。しかし個人レベルでは、満たされた時に自ら欠如を作り出すようでは、いつまでたっても幸せにはなれない。Happinessの定義は、感性に留めるものかもしれない。

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ロンドンの中国人街。ロンドンの中心街にあるが、いくつかの店は中国語(Mandarin)しか通じず独特な空気感がある。語族が違えば表現が違い、表現が違えば文化が違う。はたまた、文化が違うから言語が違うのか。

(文責:渡辺 英喜)