株式会社エンバイオ・エンジニアリング

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2021.07.19

二大河川と周辺産業

外国人にも馴染みのある中国の川と言えば、黄河と長江(揚子江)であろう。中国語(Mandarin Chinese)では、「河」と書くと黄河、「江」と書くと長江を指し、文化的歴史的にも単なる河川に留まらない存在だ。
北方の半乾燥地域を流れる黄河は、文字通り黄土高原の中を流れ、下流部に大量の黄土を運ぶ。下流部の山東省では、土砂の堆積で天井川となっているが、そこから灌漑用水が流域の農業生産を支えている。流域の1億人を超える人口に対して水量が少なく、しばしば下流部で流れが途切れてしまうことがある。
一方、中国の中部を流れる長江は安定して流量が多く、2020年夏に豪雨による決壊の懸念が報じられた三峡ダムが上流部に位置する。流域にとっては水源としてだけでなく航路としても重要度が高く、特に江蘇省の省都である南京から、河口部の上海市の手前までの、中国最大の工業地域の水上交通を支えている。日系企業も多く進出し、私が過去に担当した中国案件も多くはこの地域であった。

長い河川では、上流から下流まで水が繰り返し使用されるが、下流域における水質悪化が問題となっている。近年はそれを抑制するため、主要河川流域の開発制限が厳格化してきた。2018年頃から具体的な措置となり、特に長江沿岸周辺の化学企業や化学工業園区(工業団地)については、新設禁止のみならず、工場移転を促す閉鎖目標が立てられた。長江流域の南通市では、2021年4月に市政府から移転要請が出され、現地の化学系工場は対応を迫られている。長江流域の生態環境の保護は、国レベルで取り組まれる重要政策となっている。

長江上流部には、いくつもの長大な支流がある。その中でも、古代には長江の源流と考えられていた岷江(びんこう)は、その「岷江の支流」が全長1,000kmを超える大河川である。広い川幅で、上流部とは思えない豊富な流量だ。

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岷江に隣接する崖を掘って造られた楽山大仏。713年に着工され、90年後の803年に完成した。高さが71mの全体像を一度に見るため、河川には遊覧船が出ている。

流域の四川省楽山市では、岷江と、支流の大渡河(だいとが)および青衣江(せいいこう)が合流する。水運の要所でもある楽山市は、かつて内陸部には貴重な岩塩の生産で潤っていた。塩の運搬には水路も使用されていたが、特に大仏が位置するあたりは流れの速さから水難事故が多く、仏さまの力で治めて頂こうとの願いで巨大PJが始まった。 島国の日本では馴染みが薄いが、海水以外からの塩精製は、岩塩の露天掘りか地中深くの塩水をくみ上げる井塩と呼ばれる方法が用いられる。当時の内陸部にとっての塩の生産は、膨大な工事費用を賄えるほどの産業だったことが窺える。

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楽山大仏は頭頂部だけでも約15m、奈良の東大寺の大仏の高さとほぼ同じにあたる。
(文責:渡辺 英喜)