⼈権デューデリジェンス(⼈権DD)
人権デューデリジェンス(人権DD)とは、企業が事業、サプライチェーン、利用しているサービスにおいて、人権への負の影響、具体的には強制労働や児童労働、ハラスメント等の人権リスクを調査・評価し、それに対処するために措置を行うことを指します。
企業活動は、ステークホルダーの人権に直接的あるいは間接的な影響を与えるため、国際社会は企業に対して人権尊重への取り組みを求めています。グローバル企業にとって、人権リスクは、OHS (Occupational Health and Safety / 労働安全衛生)リスクと同様に、企業活動が社会に与える直接的あるいは間接的な影響を考える上で重要な要素となっています。同じ「デューデリジェンス(DD)」という名称である環境DD と比較すると、環境DDがM&Aにおける買収対象企業への評価に限定された、守秘性の高く短期的な調査であるのに対し、人権DDはM&Aにおける評価対象としての調査に加えて、対象企業自身の取り組みとして「幅広いステークホルダーを対象とした、長期的かつ継続的な調査とその結果の公表」を伴うことが一般的であることに特徴があります。
日本においても、経済産業省が2022年8月に「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」に関するパブリックコメントが募集され、9月に指針が公表されました。各企業により具体的な人権保護の取り組みが求められるようになってきています。
国連指導原則に沿った⼈権DDの実施
人権への取り組みは多岐にわたりますが、企業にとっての人権問題は、とりわけその生産活動に従事する人々、労働者との関係において発生します。この問題に対処するため、事業、サプライチェーン、及び利用するサービスにおける従業員の実際の危険及び将来の危険を検出し、対処するための行動が企業に求められます。実際に、そのような対応が求められている企業様から、人権についての義務を果たすために具体的に何をすべきかが分からない、という声がエンバイオに寄せられることも多くあります。エンバイオでは、下記の4つの手順に沿って、ビジネスと人権に関する国連指導原則に沿った人権DDの実施を行うことが、最も効率的なアプローチであり、長期的な変革を生み出すための最も有望な戦略であると考えています。
企業が自社の事業、サービス、商業的パートナーシップ、活動等を通じて引き起こしたり加担したり可能性のある、人権に対する実際の/将来の悪影響を特定し評価する。
人権に対する影響への評価結果を、関連する事業や業務プロセスに組み込むことで、それぞれの影響に応じて必要な措置を講じる。
人権への悪影響を軽減するために実施された手続きや行動の結果をモニタリングし、それらの効果や持続性について調査する。
評価結果がどのように対処されているかについて、ステークホルダー、特に影響を受ける人々に対して発信し、その方針や手順が十分に確立されていることを示す。
⼈権に対する影響への評価で考慮すべき典型的なリスク領域
企業が関係するすべてのバリューチェーンは、関わる人々の人権に悪影響を与える可能性があることから、人権DDの一環としての評価対象とされています。人権に関する懸念事項は、組織内のすべてのグループと部門の運営にとって重要であるため、経営陣と従業員の双方が、人権問題が存在する可能性のある潜在的なリスク領域を認識する必要があります。立場によって、下記のような異なる懸念が存在します。
- 従業員
- 低⽔準の最低賃⾦、労働時間、福利厚⽣等や、不⼗分な社会保険/年⾦制度等
- 正当な理由のない、採⽤・昇進・退職等における不利な取扱い
- 労働者が持つ団結権、団体交渉権の否定
- 危険な労働環境、⻑時間労働、虐待的な監督、児童労働等
- サプライヤー
- ⼈権、環境保全、労働者保護に関するサプライヤーのパフォーマンスへの不⼗分な配慮
- ⼈権に悪影響を与えるサプライヤーの⾏動について内部告発を受けた場合における、あらゆる措置の不実施
- 顧客
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消費者の苦情に対する企業の責任ある対応の不実施
例)連絡先情報の提供、問題の再発防⽌に向けた取り組み等
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企業利益のみの追求
例)消費者の選択に影響を与えるような好ましくない情報を意図的に隠蔽または開⽰しないことにより、マーケティングのしやすさを優先する等
⼈権マネジメントのアプローチ
エンバイオは、国内外拠点に拠点を持つ企業に対して、下記のようなアプローチで人権マネジメント体制の構築を支援することが可能です。
SA8000 (Social Accountability 8000)は、米国NGOのSAI (Social Accountability International)が公表する、就労環境評価の国際規格です。
複数国にビジネスを展開する企業では、現地の法令遵守、日本基準との比較など、様々な要素を考慮して人権リスクを考える必要があり、全てのステークホルダーが要求する基準を構築することに困難が伴います。そこで、SA8000のようなマネジメント規格を各拠点に展開することで、全社的に人権リスクを低減させることも、人権リスクを回避するための手段の1つとして考えられます。。
SA8000では認証の要件として、企業が認証を取得してそれ保持するためには、単に基準に準拠するだけでなく、それ以上のことを行う必要があると言及されています。継続的改善が必要となる面で、ISO規格と類似する側面を持っています。。
SAIは、SA8000の要求事項として、以下の9つを基準項目として挙げています。
- 児童労働
- 強制労働
- 健康と安全
- 結社の⾃由と団体交渉権
- 差別
- 懲罰
- 労働時間
- 報酬
- マネジメントシステム
Q&A
- 日本国内における企業活動で人権が問題となるのはどのようなケースですか?
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一部の企業による外国人技能実習制度の悪用が問題となることがあります。同制度は、日本に外国(開発途上地域等)から技能実習生を受け入れて、日本の職場において実習させ、出身国において修得が困難な技能等の修得・習熟・熟達を図ることを目的としており、期間は最長5年(当初3年)となっています。しかしながら、2010年代後半から日本の農業や製造業など受け入れ先の一部で、技能実習生が「安い労働力」として酷使され、劣悪な労働環境に置かれていることが大きな社会問題となりました。
その後、法規制の改正等が進められて状況が改善されつつあり、現在は日本人と同等の条件で技能実習生を雇用し、有期ではあるものの長期的に生産活動に貢献してもらうことを目指す企業が増えています。